
仁王と幸村の病院でのやり取りについて、唯が知ったのは翌日の放課後だったが、この日は全員が集まることはできず、現状で内容を把握したのは他には切原と丸井、ジャッカルに留まった。
「とりあえず、幸村くんの事情は分かったけどよ。肝心の手がかりはあんのかよぃ」
「ない」
「仁王にそう言われちゃもう詰んでね? だってその幸村くんその二が今どこにいるかなんて、俺たちに分かりっこねーじゃん」
「その二ってなんスか」
「だって、あの影の奴も幸村くんなんだろぃ? だったらそう言うしかないじゃん」
「その手がかりを見つけるためにも、まず、鏡の破片を見つけたい」
「鏡って、仁王の予測だと実か真が持ってるんだろ? だったらそっちも難しくないか?」
そこでジャッカルの表情がわずかに歪んだ。
無理もない。彼にとっても二人の存在は棘のように内側で刺さったままなのだ。
そんな彼の変化を横目で見た唯もまた、複雑な思いを抱いた。
「時間はない。出来ることからやってみるしかないぜよ。それに例の双子の家を知ってるのは、ジャッカルたちだけじゃろう。だからそっちを一旦探って欲しいんじゃ。俺は、鏡が手に入った時のために手を打つ」
「なぁ、仁王。俺は?」
「丸井はそうじゃな。一人で動いてもらうわけにもいかないしのう」
「だからって、俺一人でここ残んのも嫌だぜ。だったらジャッカルと唯に着いてく。まぁ、役には立たねーかもしんないけどよ」
着いて行ったらまずいのかと、伺うような目で丸井は二人を見る。
唯とジャッカルは互いに一瞬顔を見合わせたが特に異論はなかった。
「決まりじゃな。とりあえず深追いは厳禁じゃ。無川、何かあったら頼むぜよ」
頼む。そんな言葉をあえて仁王が口にしたということは、双子の出方次第で場合によっては相応の対応をしてくれという意味だろう。
唯はそんな結末だけはならないで欲しいと思いつつ、頷くほかなかった。
まさか再びあの家を訪れることになるとは、唯も予想をしていなかった。
彼女が道筋を思い出そうとした時に、ジャッカルが大丈夫だと言って道筋を控えた当時のメモを生徒手帳から取り出した。
捨てずに持ち続けていた彼の心情はいかほどだったのか。表情にこそ現れてなかったが、僅かな間でくたびれた様子のそれを見たただけで、確かに伝わるものはあった。
「実際のところ、そいつらの家に行ってどうやって鏡の在処を探ればいいんだよぃ」
「さぁな、そもそも今も同じ住所に住んでるのかも怪しいしな。別にブン太も仁王と一緒にいてもよかったんだぞ」
「いや、一人で残って連絡係も嫌だし。仁王となんてもっと大変そうだからな」
「でも、本当にどうしましょうね。家に行っても部屋には入れないでしょうし、かといって近所の人に今更聞くのも変に思われちゃいそうですし」
「そもそも俺たち、親父さんたちにあんまり良く思われてなさそうだからな。鉢合わせしたらそれはそれで面倒なことにもなりそうだ」
「ま、その時はその時じゃね?」
実あるいは真が持ち去った踊り場の鏡の破片は、ジョーカーの手には渡らずに今も彼らが持っていると仁王は考えている。
なぜ、二人は指示者であるジョーカーの意に反したのか。その疑問について、幸村は真の以前の発言から、二人がジョーカーに従っているのは、何かしら脅されているからではないかと持論を述べた。だとすれば、彼らにとってもそれは切り札になりうる重要なものなのかもしれない。
仮に見つけられたとして、そう簡単に渡してくれるだろうか。仁王が幸村に漏らすと、彼はどうだろうねとだけ答えた。
「あいつらん家ってここ?」
丸井が閉じられた門扉の向こう側を伺うようにしてジャッカルに尋ねた。
ここに来たのは一度きりだったが、唯もジャッカルも思った以上に記憶に残っており、後半はメモを頼りにしなくともここまで辿り着くことが出来た。
家はおろか周囲にも人気は全くなく、いざこうして訪れたものの次の手をどうするかと唯とジャッカルが相談していると、丸井がインターホンに手を伸ばしていた。
予想以上に大きな呼び鈴が鳴り響く。
「お、おい! ブン太!」
「ここまで来てうだうだしててもどうしようもないだろぃ」
慌てふためく二人をよそに、しれっとした顔で丸井は再びインターホンを鳴らす。
だが、やはり家人は不在なのか、それに応える様子はなかった。
「やっぱ留守か。んじゃ、その辺の人にいつ頃家に戻るか聞くしかないな」
「ブン太待てって。そんな手当たり次第に動くなよ」
「手当たり次第?」
咄嗟に肩を掴んだジャッカルを丸井はじろりと睨み付けた。
「あのさーお前ら今更何言ってんの? 幸村くんに時間ないの分かってんだろぃ? 家行ったけど誰もいなくて何も分かりませんでしたって戻ってどうすんだよ。また、仁王に全部任せんのかよぃ。おかしいだろ。そんなの」
「ブン太……」
「ジャッカルみたいに慎重なのも大事かもしれないけどよ。俺はやれることは全部やって、それでも駄目だったらそん時考える。なぁ、さっきからずっと黙ってるけど、お前はどうなんだよ。唯」
「えっ? 私は……」
丸井からじっと射貫くような視線を向けられて、唯はたじろいだ。
「……君たち、ここで何をしているんだい?」
三人の背後から突然声が投げかけられ振り返ると、そこには実たちの父親が立っていた。
そして丸井の顔を見た瞬間、彼は少しばかり驚いたように目を見開いた。