カレイドスコーピオ

インビジブル

11.全国大会 / 28

「もう立海との試合とっくに始まっとんで。どうせ千歳メール見てへんのやろ?」

 遠山があきれた様子でそう漏らす。
 こうして並ぶと彼と千歳との身長差は相当なもので、傍から見ているとまるで弟が兄に文句を言っているようなどこか微笑ましくすら感じる。
 千歳も千歳で遠山の言葉など全く意に介してない様子で、彼に何を言われても、ただにこにこと笑っているばかりだった。

「そういう金ちゃんも、昨日は白石に探されとったばい」
「う。でも、俺は千歳と違うて試合に間に合ったやん! あ、どこ行くんや!」
「コートはこっちでよかと? ばってん、幸村くんと真田くんがおらんなら、別に俺もおらんでも良いと思うたい」

 先立って歩き出した千歳の足元から、ふいにからんと軽い音が響いた。
 はそこで初めて彼が下駄を履いていることに気付く。辺りは砂の混じった道であるはずなのに、やけに綺麗に響いた音はそれきりで、あとは砂を引っかく音しか聞こえてこなかった。

「何や、千歳の奴、ちゃんとメールは見とったやん。な、ねーちゃんも早よ行こ」
「あ、でも私は、わっ!」
「ほら、行くで!」

 が言い終わらないうちに遠山にぐいと腕を引かれて歩き出されてしまえば、彼女も二人とともに戻るしかなかった。

 三人がコートについた頃には、ダブルスの試合が中盤に差し掛かっていた。
 立海は丸井とジャッカル、四天宝寺は金色と一氏と、互いの主力同士のぶつかり合いだ。少しでも気を抜けばあっという間に敗北を喫してしまうのは明らかだった。
 もちろん公式の試合ではないが、お互いにプライドがあるからこそ、名目上は遊びとはいえ手を抜くつもりはない。言葉にせずともそんな雰囲気が双方から漂っていた。
 コートの入り口から入ってすぐのベンチには四天宝寺、奥側に立海のメンバーが座っている。一足早くついた千歳は忍足から何かを言われているようだった。
 コート外には既にギャラリーの人だかりが出来ていて、試合が進むにつれ確実にその数は増えていった。
 予想以上の展開に、人垣をかき分けるのを躊躇するの意向など気付かず、遠山に半ば引きずられるままにコート内に入れば、そのまま彼女は有無を言わさずに四天宝寺側のベンチに座らされた。
 これもにとっては予想外のことで、向かい側にいる切原が手招きしている姿が見えたが、遠山が腕を放さないため彼女は動くに動けなかった。

「金太郎くん、私、ここじゃなくて外で観てようかな……」
「何で? ここで別にええやんか。外よりここのほうが疲れへんし観やすいで」
「いやほら、私立海だし」
「ん? それって関係あるん?」
「えーっと……」
「遠山の言う通りちゃいます?」

 そう言いながらの隣に座ってきたのは財前だった。
 更に重なった思わぬ展開に彼女が目を丸くしていると、財前は表情一つ変えずにコートの方に視線を流した。もどう反応したらいいのか分からずに後を追うと、こちら側に来ようとしている切原を柳が制している姿が目に飛び込んできた。
 二人は二言、三言何やら会話を交わし、やがて切原がやや不服そうにもベンチに腰を下ろしたことから、どうやら彼女がここから動く必要はなくなったらしい。
 遠山と財前だけではない。他の四天宝寺のメンバーもの存在にさして違和感を覚えておらす、結局のところ居心地の悪さを感じているのは、どうやら彼女だけだったようだ。

「遠山、次試合やって。準備しとき。相手は切原くんや」
「マジで!? よっしゃ! 財前手伝ってや」
「今日は俺は観とるだけや。謙也さんが付き合うてくれるって」
「何や、財前やらんの? ま、ええわ」

 対戦相手が切原と知り、遠山は嬉しそうにベンチを立ち上がるとラケットバッグを掴んで隣のコートへと駆け出していく。それに忍足も続いた。
 いよいよは財前と二人きりとなった。厳密にはほんの僅かに離れたところに白石達がいるのだが、やけにその距離が遠く感じるのは、彼女の財前に対して抱えている印象が大きく影響している。
 一言でくくってしまえば、は財前が苦手だった。きっかけは、言わずもがなこれまでの財前の彼女に対する態度で、特に先のペットショップでの出来事が大きい。
 と言っても苦手というのは、あくまで彼女の一方的な感情であり、どちらかというと財前はに対してそもそも一切の興味を持ち合わせていないように見えていた。
 それならそれで彼女にとって問題はないはずなのだが、こうして予期せず中途半端に接されると、やはりどう対応していいのか分からなくなってしまうのは相変わらずで、その瞬間にには苦手意識として定着してしまうのだ。
 会話の糸口について彼女があぐねている中で、財前は一転して今度はの方をじっと見ていた。
 視線を感じつつそれでも彼女はコートを見つめるのを止めなかったが、彼からの視線は変わらず一心に注がれている。
 やがて根負けに近い形でが少しだけ頭を彼に向けると、やはり表情の変わらない財前と視線が絡んだ。

2017/03/18 Up