
立海大公園に全員が集まったのは十五時を過ぎた頃だった。
始業式のため午前中で下校となったが、テニス部の練習は通常通り行われており、一人時間を持て余した唯が先に公園へと向かおうとしたところで、やはり仁王にくれぐれも単独行動はするなと釘を刺されてしまえば、大人しく美術室に籠るしか他なかった。
その割に、公園には各々現地集合との指示があり矛盾があるように思えたが、確かに皆でぞろぞろと公園に向かうのもおかしな話だ。
ところがこうしていざ公園に集まったところで、別な問題が発生したのだ。
「……何で、アンタらがこんなとこいるんだよ?」
「そないなこと、俺に聞かれても困りますわ」
財前は、切原と目を合わさずに答えた。
唯たちが四天宝寺の面々と出会ったのは、公園を訪れてから間もなくのことだった。
結局のところそれが偶然ではなかったのだと白石の口から聞くまで、唯も切原と同じように疑問に思った。
立海は全員制服姿であるのに対して、四天宝寺は私服姿だったこともそうだが、何よりそもそも彼らは神奈川ではなく大阪在住のはずだ。本来ならここにいるはずがないのだ。
「せっかく関東に来て時間も出来よったし、立海の皆はんの練習の様子を見させてもろとったんや。ほしたら、この公園にフリーコートがあるって聞いて、少し打ってこうってなってん」
「え? じゃあ白石さんとこ、皆わざわざ今日学校休んだんスか?」
「ちゃうよ。俺たちんとこは新学期は金曜からやからまだ休みやねん」
「四天宝寺って休み長いの? 良いなー」
「休みの日数は切原くんのところと変わらへんよ。その分、俺らの方が夏休みが始まるのが遅かったんや」
確かに日付がずれていたとすれば、白石の説明に合点がいく。
彼らは全国大会の期間中、大会近くにある顧問の知り合いの施設を宿として借り受けていたそうだ。
準決勝で試合に敗退したあともすぐには大阪に戻らず、夏休みの残りをこちらで過ごすことになったらしい。その中で、どうせなら立海の練習風景を覗いていこうと勢いだけで彼らはやってきて、部活の終わりまで大人しく見学していたのだが、それに気付いていなかったのは切原だけだった。
だが、彼らの目的はそれだけではなかった。
「白石、偶然を装うつもりなのかもしれないが、実のところはそうではないのだろう?」
「あはは。柳くんまでそう言わんといてや。折角やん。な?」
ラケットバッグを軽く上げてにっと白石が笑えば、近くにいた忍足も続く。
財前だけは興味なさそうにため息をついた。
「これじゃ七不思議の調査どころじゃないじゃん。仁王、どうするんだよぃ?」
「あの状況じゃ無下に断り辛いじゃろう。何だかんだ言って白石があっさり引くとも思えないしのう。それに……」
ちらりと仁王が柳を見やった。
「影の少年の件について、参謀が白石と連絡を取り合ってたとはのう」
「特にお前に聞かれなかったからな。安心しろ、こちらに不利になるようなことは伝えていない。ただ情報収集を手伝ってもらっただけだ」
「ということは、まだ俺たちが知らん情報を参謀は握ってるってことじゃな」
「さあ、どうだろうな」
さらりと柳は言ってから、四天宝寺側のベンチを見やった。
立海側は幸村と真田だけだったが、話を持ち掛けた割には四天宝寺側は金色、一氏、石田、遠山、千歳と多くの姿が見えない。
白石の話によれば、公園までは確かに一緒だったはずの千歳の姿が気付けばいなくなっていたそうで、携帯電話も繋がらず今は手分けして探しているらしい。
彼においてはどうやら珍しいことではなく、日常茶飯事と慣れた様子の彼らだが、このままだと千歳を抜いて試合は始まる結果になるかもしれない。
「でも仁王先輩。本当にどうするんスか? せめてちょっとだけでも調べられたら良いけど、そんなことしたら四天宝寺も変に興味持っちまう気がする」
切原の言うことは尤もだった。
四天宝寺もこの公園に集まっている立海の姿を追ってここに来たのだ。彼らは事情を知らないにしろ、唯たちの目的を知れば、察しの良い白石あたりに指摘されかねない。
更にいざ試合が始まってしまえば、中々抜け出しにくくなってしまうだろう。この中で比較的身軽なのは、やはり彼女しかいなかった。
「だったら私が見てきます。ここからそんなに離れてないし、まだ公園に結構人もいるから。やっぱり少しでも調べておいたほうが良いと思いますし、もし危なそうだったらすぐに戻ります」
「……そうじゃな。かえって無川一人のほうが、変に勘繰られないかもしれん。ただ、無川も分かっているとは思うが、少しでも変だと思ったらすぐ戻ってきんしゃい」
唯が予想していたよりも、あっさりと提案を了承した仁王に唯はほっと胸を撫で下ろしながら、彼らのそばを離れた。