カレイドスコーピオ

インビジブル

11.全国大会 / 24

「……幸村くんが? 何で?」

 恐らくこの場の、特に幸村に近しい人間ほどそう思っただろう。
 心霊的な事象について懐疑的かそうでないかと分類するとすれば、真田ほど極端でないにしろ幸村もどちらかと言えば前者に近い人間だった。
 だが、彼の場合は少しばかり事情が異なる。
 真っ向から“ありえないことは起こりえない”と否定する真田に対して、幸村は“ありえないことは時に起こりうる”ということを前提に、あえて懐疑的な立ち位置に準じてそれらを客観的に捉えようとしているらしい。
 自らは踏み込まず、時にあるがままを受け入れる。言葉にするのは簡単だが、行動に起こすのは難しいことだ。ましてや仁王を中心として度々異変を目の当たりにしていながら、その足を頑なに動かさずにいるためには、相応の覚悟が必要とされる。
 だからこそ柳のこの発言は、丸井にとって純粋な疑問であり、また非難でもあった。

「幸村くんって、そういうことしないって柳が一番良く分かってんじゃん」
「理由は俺にも分からない。赤也、立海七不思議のそれぞれの発生場所を順番通りに言ってみてくれないか」
「え、あ、順番? えーと。二階の男子トイレ、踊り場の鏡、屋上の貯水タンク、科学室の骨格標本……ん? 科学室?」

 柳に言われるまま口にした切原が、はたと気付いたように紙面を見る。そして4のところを指さしてから「これって科学室の科!」と再び声を上げた。

「これだけで判断するのは乱暴な話だがな。どうだ、仁王?」
「伸るか反るか。俺の答えなんて聞かなくても分かってるはずぜよ。参謀の悪い癖じゃな」
「ああ、良く肝に銘じておくよ」

 そう言って柳は笑った。

 科学室へは全員で移動した。
 仮に七不思議が関係しているのであれば、科学室に絞らず何組かに分かれて平行して他のものも調べたほうが時間の短縮になるのではないかという提案も上がったが、少人数で動くのはむしろ危険が増えるだけだと仁王はそれを否定した。
 とりあえず科学室を調べて何も手がかりが見つからなければ、その時はまた別案を立てることに決まり早々に科学室へやってきたのだが、例の如く仁王は当たり前のようにポケットから鍵を取り出し開錠する。
 真田がいれば、相変わらずその鍵の出所について彼を叱責しただろうが、あいにくとこの場で柳を含め改めて指摘する者はもはやいなかった。

「科学室の話っつーと、人体模型がどうのこうのってやつだっけ?」
「そっちじゃないッス。骨格標本の方」
「あー骨か。どっちもそんな大して変わんないだろぃ」

 室内に入ってから周囲をしきりに見渡していた丸井が呟き、どこにも人体模型はおろか人体骨格標本がないことに首を捻る。
 仁王が「こっちじゃ」と準備室の扉を開錠しながら彼らを呼んだ。
 準備室は思いのほか広さがある。授業で使う備品の中でも、主に薬品や剥製、標本など管理が必要なものはここへ収められ施錠管理されており、生徒が足を踏み入れるのは授業の準備をする時ぐらいだろう。

「赤也。あまり無暗に触れると警報が鳴るぞ」

 物珍しそうに薬品棚の扉に手を添えて中を覗き込んでいた切原に柳がそう警告すれば、彼はぱっとその場から手を放した。
 目的の骨格標本は部屋の一番奥にあった。
 その一角には、人体はもちろん鳥類や魚類などの骨格標本が並び、人体は起立した状態でキャスター付きの木箱の中に納められている。
 この場で確認するにはさすがに手狭なため、外へ運び出してから箱から取り出し改めて見てみると、人体をモデルとしているだけあって仁王と同じくらいの身長があった。

「で? これの七不思議って具体的にはどういうのだっけ? 俺、詳しくは知らないんだよな」
「こっくりさんの時もそうだったけど、意外と丸井先輩ってこういうの興味ないッスよね」
「意外ってなんだよ。だって動くとか音が鳴るとか、びっくりさせるやつばっかりだろ。大体ワンパターンなんだよ」
「あー確かに。ブン太の言う通り学校の怪談ってどこも似たような話ばっかりだよな。これだってその定番の夜中に勝手に動くってやつだぜ」

 明るい場所に運んだおかげで、骨格標本は全体の様子がよりはっきりと見ることが出来た。
 全体的に黄ばんでおり、何本かのあばらの骨が途中から折れてなくなっている。全身の至る所に小傷もあり、そのせいかより近寄り難い印象を受けた。

「これってさ。結構古く見えるけど、本物の骨だったりすんのかな」

 ぼそりと切原がそう漏らしたことで、はぎょっとして骨格標本をじっと見つめた。

「もちろんそういったものもあるが、これは合成樹脂製だ。言ってしまえば精度の高いプラモデルと相違ない。黄変具合から見て相当古いようだな」
「何かそう言われると余計に怖さが半減するな。やっぱりさ。何で幸村くんがこれ調べてたのか、俺にはさっぱり分かんねぇんだけど」

 丸井が小突くようにして頭蓋骨に触れながら、半ばあきれた素振りで呟いた。
 が視る限り、これは何の変哲もないただの骨格標本だ。彼女に分かるのなら仁王も当然一目視てそのことに気付いているはずだ。
 では、なぜ何のために幸村はこんなものを調べていたのか。疑問ばかりが膨らんでいくだけだった。

2017/01/22 Up