
現在の幸村の状態については、柳から既に全員にメールで知らされていた。
大事ではないという喜ばしいものではあったものの、一方では疑問の残るその内容について、誰もが彼からの説明を求めずにはいられなかった。
「弦一郎は、俺と交代で病院に残った。こちらには来れない。俺たちで進めていて構わないそうだ」
「な、なぁ、柳。幸村は問題ないってメールにはあったけど、面会謝絶ってそれ本当に大丈夫なのか……?」
淡々と話を進めようとする柳に、たまらずジャッカルが尋ねれば柳は小さく頷いた。
「医師からは、本人の意識ははっきりしているが、当面家族以外との面会は駄目だとだけ説明をされた。だから俺も精市とは直接話は出来ていない。俺だって精市の状態は気がかりだが、医師の見解を押しのけてまで意見を通すわけにもいかないからな」
柳が机上の紙面に視線を落とす。
皆の関心が幸村の状態について寄せられる中、仁王はそれが置かれてから一心に興味を注いでおり、二人の会話に全く興味がないようにも見えた。
その様子に切原が怪訝そうに眉を寄せ、丸井に何やら言おうと口を開きかけたが、仁王が紙面から視線を外さないまま口を開いた。
「参謀、俺たちは幸村と会って話をするどころか、間接的に接触すらできないんじゃろう?」
「ああ、具体的にいつまで面会謝絶が続くのかは分からないが、あの様子では精市の復帰は土曜になるかもしれない」
「やっぱりか。それじゃちと遅すぎる。決勝までに少しでも糸口を握っておかないと、決勝当日にまた何か絶対に起きる」
「俺もそう思っている。影の少年の件はさておき、ジョーカーにとって今のこの状況は好ましいものでしかないからな」
「幸村に話が聞けない以上、だったら俺たちが出来る限り動くしかないぜよ」
「あーそう言われりゃそうだよな。で、その紙、何か分かったのかよぃ」
「いや、さっぱりじゃ」
「……だよなぁ」
仁王の横から紙を覗き込んだ丸井も、お手上げとばかりに肩をすくめる。
罫線が引かれた何の変哲もない紙だ。ちょうど縦の右半分から無造作に破り取られてしまっているが、元はB6の大きさだったのだろう。
特筆すべきは残された情報の少なさで、かろうじて確認できるのが、縦書きで1~7までの数字が並び、その中で4だけが丸印で囲まれている。そしてすぐ下には『79?』と小さく記されていた。
文章らしいものはなく、唯一あったのは4の隣に書かれた『科』のみだ。それ以上は何もない。
数字の後に続くであろう核心の部分は、恐らく破り取られた先に書かれていたのだろう。現に先の科の字も先が続いていたような形跡が見て取れる。
「お前や柳や柳生がお手上げなら、俺に分かるわけねぇよ」
「やはり残りの部分が分からないと、どうにもなりませんね。この紙自体は恐らく手帳の紙ではないのかと思うのですが。柳くん、幸村くんの荷物は全て病院に?」
「あぁ、ご家族の方に全て渡した。それらしい手帳も鞄の中にあったが、さすがに中まで改めるのは憚られてな」
「当然のことだと思います。無川さんは何か分かりますか?」
「いえ、私にもさっぱり……」
この情報だけでは得られる情報は限られる。せいぜい1から7までの数字の並び方からみて、項番なのだろうという予測が立つ程度だ。
そもそも根本的な話として、これが影の少年やジョーカーについての手がかりになるという確証はないはずだ。もしかすると幸村の単純に個人的なメモの可能性だってあるのだ。
だが、こうして柳が持ってきたというだけで、それは重要な意味を持つ。きっと彼には何かしら心当たりがあるのだろうと唯は柳を見つめたが、いくら待てども彼が発言する様子はなかった。
その時、丸井が一心不乱に紙を見つめていた切原に声をかけた。
「赤也、お前さっきから熱心に見てるけど、何か気付いたことでもあるのかよぃ?」
「あー、ぜんっぜん」
「ったく、そんなんだと思った。だよなぁ、お前が分かるなら俺もとっくに分かってるわ」
「ちょっ、それ酷すぎッス! 俺だって自分なりに考えたりしてたし」
「へぇ、例えば?」
「あ、いや、それは……」
「何だよ。そこまで言ったなら言ってみろぃ」
完全に切原の様子を楽しんでいる丸井が言うと、切原がとたんに口ごもる。
そういう反応が彼の好奇心を高めることを切原自身も知ってはいるのだろうが、どうにも上手くコントロールができないらしく、彼に再び催促されてしまえば諦めたように口を開いた。
「なんか数字の並び方見ると七個あるってまず思うじゃん。だから、七個あって変なことって言ったら、立海七不思議かなぁって……ってほら! だから俺言いたくなかったんスよ!」
しんと静まり返ったうえ自身に視線が集中した状況に、丸井が揶揄するような言葉を発しなくても強い後悔が襲ってきたのか切原が耐え切れずに叫ぶ。
そんな彼に賛同したのは、柳だった。
「赤也と同じくその可能性について俺も考えていた。精市は立海七不思議を調べていたのではないかと」