カレイドスコーピオ

インビジブル

11.全国大会 / 22

 切原からは作戦会議とは言われたものの、いざ学校へ着くととレギュラーたちは一旦そこで別れた。
 目的は一緒にしろ彼らは第一にテニス部の部員の一人だ。もちろん彼ら以外にも試合に出ることのない部員も多く校内にいる中、到着して早々にレギュラーの全員がコートから消えれば、それはそれで問題になるのは当然だった。
 結局、移動中の車内では、彼らの部活がひとまず終了してから、改めて集合するべきだという話でまとまっていた。
 一人になったは、真っ先に美術室へと向かったのだが、扉の前に立ってそこで初めて鍵がないことに気付いた。職員室に鍵を借りに行かなければならないが、ふと思い立って扉に手をかけると、予想に反してそこはするりと開いた。

「あれ? 開いてる?」

 予定があると先に帰った佐竹がいるはずはない。
 他の部員の誰かが来ていたのだろうかと室内を見回すと、窓の近くの席に城咲が座っていた。
 彼は扉が開く音に顔を上げと目が合うと、さして驚く様子も見せずにこりと彼女に笑いかける。

「あぁ、無川くん。テニスの試合は終わったんですね。どうでしたか?」
「はい。来週、青学と決勝戦です……城咲先生、絵を描いてたんですか?」
「えぇ、簡単なスケッチです」

 そう言って、城咲は手にしたクロッキー帳を閉じた。それは、も何度か目にしたことがある古びた表紙のものだった。
 彼の周囲にモチーフらしきものは見当たらないが、机の上に削られた鉛筆や練り消しが並んでいる様子から、何かを描いていたのは間違いなさそうだった。
 やがて腰を浮かせた城咲をは慌てて制止する。

「私、画材取りに寄っただけなのですぐに帰ります。だから、城咲先生は続けてください。邪魔してすみません」
「気を遣わせたようで申し訳ありません。無川くんがそう言ってくれるなら、そうさせてもらいますね」

 は頭を下げてから準備室へ入ると、目的のものを鞄に詰め込み早々に美術室を後にした。
 レギュラーたちと約束をした時間まであと二時間ほどある。彼女の当初の予定では、それまでの時間をこの美術室で過ごすつもりだったが、まさか先約が、よりにもよって城咲がいるとは予想もしていなかった。
 彼なら仮にが美術室にいたとしても気にはしないだろうが、一方の彼女にとってはそうでもなかった。
 もう九月だ。彼がこの場所で過ごす時間もまた残り僅かしかない。彼が描き留めているものが一体何であるのかには分からないが、少なくともその時間を割いて残そうとしているのであれば、邪魔はしたくはない。彼女はそう感じてしまったのだ。
 結局、が次に足を運んだのは図書室だった。

 人の少ない図書室はそれでもいつもの通りに居心地が良く、タイミング良く好みの本も見つけたこともあってか、切原からメールが着信するまで、二時間という時間を全く感じさせないほどだった。
 集合場所に指定されたのは、あの空き教室だった。
 確かにあの場所は、あまり人が来ない場所だ。仁王の目が届く範囲と限定すれば、ある程度場所の候補は絞られてくるが、テニス部の部室では誰が聞いているかも分からないし、保健室でこの人数は少々狭すぎる。
 そうなると、必然的に空き教室が候補に上がるのも自然な流れだった。もちろん、張り巡らされた仁王の結界にこれといった異変がなかったのも理由の一つに間違いない。
 が空き教室に来ると、既に柳と真田を除いたレギュラーたちの姿がそこにはあった。

「もう、すぐ近くまで参謀も来とるはずじゃ」
「仁王くん。あの、作戦会議って聞きましたが、一体何をするんですか?」
「作戦会議の中心は、無川と丸井じゃ」
「え?」
「あの時、何を見たか詳しく話しんしゃい」

 それが何を指しているのか彼女にもすぐに分かった。
 丸井の方を見れば予想通りに視線が交わり、彼は合図を送るようにゆっくりと頷いた。やはりあれは自分の聞き間違いではなかったのかと、も強く頷き返せば、丸井が仁王の前に出た。

「柳が来たらどうせ最初からやり直しだろぃ。だったら、今はざっくりした話だけにするぜ。幸村くんが倒れる瞬間に言ったんだ。『見つけた』って」
「何に向かってじゃ?」
「分かんねぇ。でも俺やに対してじゃないのは確かだ。なぁ、も幸村くんが誰に言ってたかは見てないだろぃ?」
「はい。でも、幸村くんとは確かに目が合いました。それから何かに気付いたみたいで……分かっててそっちをあえて見たとしか思えなかった」
「俺もそう思った。何か変な話だけど、影の奴が探してたんじゃなくて、まるで幸村くんのほうがそいつを最初からずっと探してたみたいな、そんな感じの声だった……」

 丸井は悔しそうに顔を歪めた。
 彼の言葉に一様に驚きの反応を見せる中、仁王もまた険しい表情を浮かべていた。

「最初から影が探してたんじゃなく、幸村が影を探してた、か。だとしたら、明確な理由があるはずじゃ」
「それは、これが多少は関係しているだろう」

 全員の視線が扉に集中する。柳だった。
 彼は皆のそばまで寄ってくると、机の上に手にした白い紙を置いた。

2016/12/18 Up