カレイドスコーピオ

インビジブル

11.全国大会 / 13

 ペットショップは、駅に隣接したショッピングモールの中にあった。
 ワンフロアを占有しているそこは、犬や猫といった馴染みの強いもののほか、小型動物や爬虫類までと幅広く扱っており、中には普段あまり見ないような珍しい品種を見ることができるのもあり、好立地条件も相まって土日ともなれば、多くの家族連れの姿で店内は溢れかえる。
 それでも今は閉店まであと三十分という時間のためか、が店内に入った時には人の姿はまばらで閑散としていた。奥にある壁一面に設置されたショーケースにいる動物たちだけは、いつもと変わらずにそれぞれの部屋の中で思い思いに眠りについている。
 店員も接客の傍らに閉店へ向けての準備を始めているようだ。がカウンターにいた女性店員へ注文していた商品の引き換えも兼ねた領収書を手渡すと、それを見た店員は、少々お待ちくださいと告げて、カウンターの後ろにある扉の奥へと姿を消した。
 待っている間にどうせならと、彼女は猫用の商品が並べられた陳列棚を眺めていた。

「……あ」

 少し離れた場所から響いた驚きを含んだ声。
 の耳にもその小さな声は聞こえたが、まさか自分に向けてだとは思っておらず、彼女は気にすることもなく棚に視線を向けたままだった。
 やがて足音が近づいたかと思うと、は肩を叩かれた。

「えっ?」
「自分、立海の子やん! えーと……あ、無川さんやろ?」
「あ! 四天宝寺の忍足くん」

 振り返りざまに彼女の視界に映ったのは、にこにこと人懐っこい笑みを浮かべる忍足だった。試合の時のジャージではなく私服に身を包んだ彼は、ヘッドフォンを外しながらそう話し出した。そこから漏れ聴こえる音楽は、の知らない洋楽だった。

「こないとこで会うなんて偶然やな。金ちゃんの件ではおおきに」
「あれから金太郎くんの調子はどうですか?」
「あぁ、あれからすぐ起きよった。もう何事もなかったみたいにピンピンしとるわ。ほんまに人騒がせやなぁ」

 良かったと彼女が安堵の息を漏らすと、忍足の手に小さな紙が握られているのが目に入った。
 それは、も今まさに受け取りを待っているペットタグの注文書だった。既に注文内容は書き込んであるらしく、後はカウンターにて清算をするばかりのようだ。
 彼女の視線に気づいた忍足は、ひらひらとそれを指先で揺らしながら口を開いた。

「ここぎょうさん種類おおてびっくりしたわー。普段ネットで注文しとるもんとかもおおてええわぁ。来週も東京来るし、せっかくやからタグ新調しよと思て」
「忍足くんはどんな種類の猫飼ってるんですか?」

 彼の持つ注文書は、子猫用の小型サイズのものだった。自然と浮かんが質問をそのまま口にすると、忍足はあぁと笑う。

「猫やあらへん。何やと思う? あ、犬でもないで。正解したらご褒美や」

 にっと悪戯っぽく彼は笑みを浮かべる。
 突然始まった謎かけに、は困惑の色を浮かべるが、忍足はそれも予想通りの反応だと言わんばかりに笑みを深くする。
 犬でもなく猫でもない。なおかつ彼の口ぶりからは、おそらく一般的なものではないのかもしれない。

「う、うーん? 鳥……に付けるには、きっと重過ぎますよね」
「あー惜しいわぁ」
「惜しい、ってことは、小動物系ですか?」
「いや。小さくはあらへん。むしろ大きいと思うで。あー女の子は苦手かもしれへんなぁ」

 頭を悩ませるの姿がやはり面白いのか、忍足は彼女の口から次々に動物の名前を引き出していくものの、結局そのどれもが正解には至らなかった。
 彼も都度、答えの到達加減についてヒントを出してくれているが、総合するとどうにも正解像に繋がらない。案外、適当に返答しているのかもしれないと彼女は思った。

「もうギブアップです。正解教えて下さい」
「あー残念やなぁ。惜しかってん。イグアナや」
「イ、イグアナ!? 珍しいですね。ってやっぱり全然ヒントに近くないじゃないですか……」
「ほら、向こうにも何種類かおってん」

 そう言って彼が指差す先には爬虫類コーナーがある。そこは確かに彼女も普段はあまり近寄る縁がない一角だった。

「まぁ、爬虫類って人選ぶかもしれへんねんけど。でもホンマ可愛いんやで。愛情込めて接すれば、少しは懐いてくれるんや」
「謙也先輩中々戻ってきいひんと思ったら、こないとこで油売ってたんスか」

 の背後からあきれたような声が降りかかる。振り返れば、声と同様に不満げに眉を寄せた財前が立っていた。

「いやぁ、思ったより楽しくてなー堪忍堪忍!」
「……はぁ、やっぱり謙也さんと来たのは間違いや。東京来てまでナンパするとか信じられないっスわ」
「おい財前。人聞き悪いこと言うなや。そんなんちゃうわ。ほら、立海の無川さんや」
「立海の無川さん……? あぁ、あん時の」

 彼女の顔を改めて見た財前もまた、ようやく思い出したらしい。合点がいったという表情を浮かべたのち、再び訝しげな顔つきに戻った。

「にしても、電話なりメールなりくれてもええでしょう。謙也先輩の携帯はただのお飾りっスか」
「そう怒んなや。財前」

 財前の言葉には棘が含まれているが、忍足は全く意に介していない様子だ。
 そんな二人にが口を挟むわけにもいかず、やり取りを端から眺めているほかなかった。

2016/01/15 Up