カレイドスコーピオ

インビジブル

11.全国大会 / 7

 時間が経てば経つほどに熱は肌を容赦なく焦がしていく。
 初戦である二回戦を立海は危なげなく勝利し、次の試合まで再び待機時間となった。
 立海の試合が始まってから、しばらくして始まった別コートの試合を観に行っていた藤ヶ谷より、四天宝寺が勝利したことをは教えられた。
 はたしてあれから遠山の財布は見つかったのかが気がかりだが、少なくとも彼のチームメイトたちがなんとかしてくれるのだろう。
 が先ほどまで休んでいたベンチへ戻ると、既に他校の男子生徒の姿があった。すぐ隣には友人らしき人が心配そうな顔で座っている。
 ぐったりと横になった生徒の顔は蒼白で、額には冷却シートが貼られている。この暑さだ。熱中症にでもかかってしまったのだろうかと、は自分も気をつけないとと思った。
 暑さにげんなりしながら、彼女が新たな休み場所求めて歩き回っていると、いつの間にか会場の入り口近くまで戻ってきてしまっていた。
 慌てて戻ろうとした時、入り口から覗く道路にやけに目立つ黒塗りの車が停まっているのがの視界に入った。

「ねぇ、芥川先輩大丈夫かな?」
「すぐに目を覚ましたし、軽い熱中症だって忍足先輩は言ってたから大丈夫だと思うけど心配だよね……試合中は全然そんな感じなかったんだけどな」

 のすぐ目の前にいた少女達の会話が耳に飛び込んでくる。
 二人の制服には氷帝という校章が見えた。口ぶりから芥川と言うのは、その学校の出場選手なのだろうか。
 まもなく車は走り出し、その少女を含め周囲の氷帝生たちが不安げにそれを見つめていた。

 事態はそれだけに留まらなかった。
 氷帝学園の芥川慈郎をきっかけに、他校でも体調不良を訴え倒れる人が続出し始めたのだ。
 先ほどから繰り返されている会場内のアナウンスは、熱中症に関する注意喚起の内容が中心だ。携帯電話で見たニュースのトピックスには、いよいよ今夏の最高気温を記録したという文字が躍っていた。
 救急車が出動する騒ぎにまで膨らみつつある中、同じくして会場内では別な噂が飛び交い始めていた。

「山吹の人。あ、出場選手じゃなくて記録係の男の子って、倒れたけど熱中症が原因じゃなかったんでしょ?」
「あ、それ私も先輩から聞いた。何か皆で移動してる時に突然倒れちゃったんでしょ。すぐに目を覚ましたんだけど、いきなり泣き出しちゃったんだってね」
「そうそう! その男の子が言うにはさーー」

 大会運営本部から全試合の一時中断が告げられたのは、それからまもなくのことだった。
 度重なる注意喚起の甲斐もなく、過去に例を見ない好天候に比例するかのように体調不良を訴える人が増加する現状に、運営側もそう判断せざるを得なかったのだろう。

「放送聞きました? 無川部長も気をつけて下さいね」
「あ、佐竹くん」

 会場に入ってから別れたきりになっていた佐竹が、に冷えたペットボトルを差し出した。
 彼の話によると、どうやらこうして運営側が飲料水の配布も始めたらしい。

「浦山に付き合って、他校の試合観てました」

 言ってから彼はしまったという顔をした。
 が不思議に思って問いかけるよりも先に、佐竹は慌てて言葉を続けた。

「あ、えーと。もしかしたら、このまま大会中止になるかもしれないですね」
「中止って、もし中止になったら、残りの試合ってどうなるんですか?」
「俺も知らないです。って言うか、そもそも中止になるって聞いたことないし。ちょうど二回戦が一通り終わったから残り試合自体は少なくなったけど、日を改めてって形に持っていったとしても、全国から人集まってるからなぁ」

 確かに全国大会には南は沖縄県、北は北海道までと代表チームが参加している。各校とも決勝戦までの想定はしていても、予備日まで確保が難しい状況にある学校も少なからずはあるだろう。
 今年の全国大会開催地は東京都であり、立海は仮に順延になったとしても融通が利く。この点は幸いだとがそんなことを考えていると、藤ヶ谷がやってきた。

「何つーか。藤ヶ谷先輩は熱中症とは無縁って感じだよな……」
「何言ってんの。身体は資本でしょ」

 彼女もまた配布されたペットボトルを受け取っていたらしく、キャップを捻ると中身を煽り始める。そうして半分ほどを飲み干すと大きく息を吐いた。

「それより、ちょーっと気になるネタがあるのよね。もう二人の耳にも入ってるかもしんないけど」

 そう言って藤ヶ谷は普段取材用に使用している手帳を取り出すと、素早くページを捲る。

「それは、俺も興味深い話だな」
「興味深いって……調べてくれって言ってきたの柳くんの方でしょ」

 話に割って入って来た柳に、笑いながら藤ヶ谷は続けた。

「放送でも何度も流れてる熱中症のことなんだけど、どうやら、それだけが原因って言い切れないみたい。倒れた人の中で、特にすぐに意識が戻った人が同じことを言っているのよ」
「は? 同じこと? 俺、その話知らないんですけど」

 怪訝そうな顔をする佐竹に、藤ヶ谷は軽く頷く。

「えぇ。”小さな男の子の声で呼びかけられて、振り返ったら目の前が真っ暗になった”ってね」

2015/09/02 Up