
柳生と仁王との会話は、ごく短い時間で終わった。
その間、切原も国舘も場にまだ留まっていたが、柳生は仁王に対して相槌を打つばかりであり、二人には全く会話の内容は分からない状態だった。
通話を切るなり柳生はすぐに自身のロッカーを開くと、先の白い紙袋を取り出す。そのやけに慎重な手つきを眺めていた切原は、興味深げに目を輝かせた。
「切原くん。お手数をかけますが、仁王くんにこれを渡していただけますか?」
そうして柳生は切原にそれを差し出す。彼は頷いて受け取ると、袋の縁に目を落とした。
「今、仁王くんはテニスコート側の備品倉庫にいるそうなので、そちらまでお願いします。ただ、どうやらテニスコートにまだ幸村くんがいるそうなので、出来れば彼には目を触れないようにして欲しいと併せて頼まれました」
「了解っス! じゃあ、これ渡したら柳生先輩にメール送ります」
「宜しくお願いします」
紙袋の隙間から覗く箱から目を逸らさないまま、切原は益々興味の色を濃くしていく。
何分、柳生から仁王へと渡るものだ。少なくとも彼が国舘から受けとったような娯楽性の強いものではないのだろう。予想がつかないからこそ、かえって興味がそそられるのは至極当然だった。
「で、これ一体なんなんスか? すっげー気になる。っと危ね」
既に本の入っていた紙袋を抱えていた切原は、柳生から受け取った紙袋を思わず取り落としそうになった。
すんでのところでそれを防ぐと、柳生が焦ったように口を開く。
「大切なものなので、くれぐれも気を付けて下さい」
「あースンマセン。ってことは、割れ物系?」
「そうですね。近いものかもしれません」
「それ、俺に預けちゃ駄目じゃないっスか!」
へらりと表情を崩した切原に、国舘は呆れたように声を上げる。
「ったく、ほら、俺が持ってるから、切原は一旦漫画の方まとめろよ」
「おーそうするわ」
切原が紙袋を一旦手渡すと、国舘から借りた本を鞄の中へと詰め込んでいく。その甲斐もあり手元が軽くなった切原は再び紙袋を受け取り、柳生とはそこで別れた。
「これ、とっとと仁王先輩に渡して帰ろうぜ」
「そうだな。なぁ切原。それ、中身気になんね?」
切原の手に下げられている紙袋をちらりと見やってから、国舘はそう口にした。
二人が進む廊下は人の気配が全くなくただ静まり返っている。日当たりも決して良いと言える場所でもないため、より一層ひんやりとした空気が周囲には漂っていた。
「あー……まぁ」
「何だよ。切原にしてはノリ悪いじゃん」
「だって、柳生先輩に何度も開けんな言われたし」
「へぇ、切原はそう言われてこそ期待を裏切らない奴だと思ってた」
「う。でもさ、これ、そんなに重くないんだよな。どっちかっつーと国舘から借りた本の方がずっと重い」
中身が本当に入っているのかと独り言のように呟いてから、切原は紙袋を軽く揺すった。かたかたと箱の中から揺れる音が小さく響いた。
少しだけ考え込んだ仕草を見せたあと、切原はおもむろに紙袋へと手を差し入れると箱を取り出す。
そうしてもう一度箱を振れば、やはり手ごたえは殆どないものの何かが入っていることだけは感じ取れた。
「あはは。やっぱり気になるよなぁ……見たい?」
「そりゃ……まぁ、気になるっしょ」
国舘がにやりと笑えば、切原も続く。
一度結論が出てしまえば、後は簡単だった。
「んじゃ、ここは言い出しの国舘が開けろよ」
そのまま切原がずいと箱を国舘の前に差し出せば、彼は苦笑いしながらそれを受け取る。
箱は、四方の合わせ目がセロハンテープのようなもので固定されていた。その切り口のどれもが、手で千切った煩雑なものではなく丁寧に揃えられている。些細なことだが柳生の性格が垣間見えた。
「おいおい。それって、バレたら全部俺のせいにするんだろ?」
「んなの、勿論決まってんじゃん」
「どう転んだって、俺ら揃って怒られるし」
「それは国舘の腕次第だって」
国舘の爪先がテープの端を軽く引っ掻いた。
思っていた以上にそれの粘着力は強くないらしく、くるりと捲れ上がりながら剥がれていく。
彼はテープや箱の表面が傷まないように細心の注意を払いつつ、まずは一つ剥がし切った。そして、大丈夫そうだと切原に答えてから次のテープへと手を伸ばす。
順調に三か所まで剥がしたところで、このまま箱の蓋を持ち上げれば開くこと自体は可能だった。国舘は一瞬どうするか迷ったもののテープに折り目が付くのを恐れて、やはり最後まで手を抜かないことに決めた。
全ての作業が終わると、いよいよ国舘の指が蓋にかかった。
「……なぁ、国舘。俺達、親友だよな?」
唐突に、切原がぽつりと零した。
「は? 何だよ。急に。当たり前じゃん」
蓋は既に完全に外れている。国舘がほんの少し手を横に動かせば、中身を確認することは造作ない。
切原は口を開きかけたが、すぐに引き結ぶと諦めたようにかぶりを振りただ笑った。そんな切原の様子に国舘は怪訝そうな顔を向ける。
だが、切原はそれ以上は何も話さず、視線だけを箱へと移動した。その仕草に国舘も本題を思い出したのか、手元へと興味を戻し、ゆっくりと被さっていた手をどけた。
そうして、中に収められていた”それ”を認めた瞬間、彼の目が大きく見開かれた。