カレイドスコーピオ

インビジブル

09.関東大会 / 31

 ジャッカルたちの戻りを待たずに幸村の病室を出たが、仁王にメールをすると、部活中であるのにも関わらず、驚くことに彼から電話がきた。
 キャラメルの箱について説明したところ、念のために中身を確認してみることになり慎重に蓋を開けてみれば、箱の中には個包装されたキャラメルが五つばかり残っていて、特に気になるような点はなかった。

「これ、翔太くんにこのまま渡しても大丈夫でしょうか?」
「箱のどこにも変に手を加えたところはないんじゃろ。無川からはどうみえる? 良くみてみんしゃい」

 彼に言われるままは箱に意識を寄せる。だが、やはり彼女の手の中にあるのは、何の変哲もないキャラメルの箱だ。
 ふっと肩の力を抜き、もう一度だけ彼女は内箱の隅々まで細工の類がないか確認をした。

「やっぱり、特に変な感じはしませんね」
「なら、とりあえず問題はない。翔太に見せてみて、もし欲しがったら渡してもかまわんぜよ。ただ中身は、色んな意味で食わんほうが良いとは思うのう」
「その辺りは注意します。ところで……」

 そこで口籠ったに、仁王が催促するように言葉を返す。

「あの。仁王くん。実くんみたいなことってあり得るんですか?」

 小さく絞り出して尋ねた彼女に、今度は仁王がしばし沈黙する。
 それは言葉を探しているというよりも、電話の先の仁王がと話しながら全く違う事柄を思案しているためなのだと彼女はなぜかそう感じた。
 初めの頃に彼に対して覚えていた壁とは違うそれに、綺麗に似合う表現がには創り出せなかった。

「“あり得る”としか俺には言えん。さっき無川が送ってきた写真も見たが、本当に良く似とるのう」

 実の家に行った時、近所の主婦からジャッカルが貰った写真をは携帯電話のカメラで撮影し、仁王へも送信をしていた。
 彼と話をしながら彼女は画像フォルダを呼び出す。
 ディスプレイに映し出されたのは少年だ。原本の写真の裏側には、ちょうど一年前の日付と少年の名前が走り書きされていた。
 笑顔で写るその姿は微笑ましく、そして何より二人の少年はまるで鏡合わせをしたようにそっくりだった。

「真くんって言うらしいです……実くんのお兄さん。魂魄炎の色も強さも全く同じだったんで、全然気づきませんでした」
「双子なら考えられる話ぜよ。ただ今までの幸村の言動から察するに、あいつは薄々気づいていたみたいじゃな」

 もし、もっと早く実の秘密に気が付いていたらどうなっていただろうか。
 そんな風に考えては酷く後悔した。
 この春から立て続けにおかしなことが彼女に降りかかっているが、そのどれもに今まさに彼女が心中で吐露した言葉が符号するのだ。
 “もしも”などという言葉では生温い。自身の至らなさが全て招いたことなのかもしれない。

――さんは、クラムボンの正体って一体何だと思う?

 幸村に投げられた先程の問いが、耳の奥で波紋を刻む。

「誰も無川のせいだと責める奴なんておらんじゃろう」
「え?」

 心の内を見透かしたように、仁王は彼女を突く。
 それを表に出すかは別として、どうしてこうも人の感情を汲み取ることに彼は長けているのか、また彼に関する空白を一つ増やした反面、彼女は気持ちが軽くなるのを感じた。

「“もしも”なんて、そんなのは何かあった時の都合の良い逃げ口上とでも思っておけば良いじゃろう」
「そう、ですね。でも、これも偶然なんでしょうか?」
「どっちが病室を荒らしたのか分からんが、何を探していたか気になるのう。幸村も何もとられてないって言ってる以上、まぁ、これも偶然とは言い難いが」

 ジョーカーの手引きと仮定したら、今までのように直接幸村自身に対して何らかの行動を取る方が遥かに容易であるのにも関わらず、今回は実あるいは真を利用しての回りくどい手段を選んだ理由が分からない。
 それに、やはり仁王はこの件の一端もジョーカーに繋がる節があると踏んでいるようだ。そうだとするとには合点がいかない部分があった。

「あの、仁王くん。何かあったんですか?」
「どうしたんじゃ、急に。別に何も」
「ジョーカーが絡んでいる可能性があるのに、仁王くんが積極的に関わってこないのがちょっと不思議で」
「あくまで、これまでの経緯を踏まえての俺の考えぜよ。前に言ったじゃろ。無川にも色々協力してもらうって」
「もしかして仁王くんは仁王くんで、何か調べていたりするんですか?」
「調べるも何も、毎日練習漬けじゃ。幸村も戻って来るし、少なくとも全国大会が終わるまでは派手に動けん」

 不機嫌そうな彼の口調に、はそれもそうかと納得する。
 上手く彼にはぐらかされた気もするが、これ以上尋ねても仁王は答えてくれないであろうことは彼女自身も良く理解していた。
 それでも、仁王も“もしも”の話を人知れず繰り返すことがあるのだろうかという小さな疑問は、仁王との電話を切ってからもしばらくは余韻のようにの耳元で鳴り続けていた。

2014/02/02 Up