
合間合間で柳生の支援を貰いながら唯が一通りの経緯を説明している間、丸井とジャッカルは黙って話を聞いていた。
事象についてどこまで説明していいのか彼女は迷ったが、最終的に柳生と切原が知っている範疇だけを選び彼らに告げることにした。
憑代、影喰の存在については、二人ともこっくりさんの際に実際に経験していたからか、比較的すんなりと彼らの中へ落ちていったのだが、ジョーカーの存在についてはさすがにすぐに飲み込むのは困難だったようで、二人ともただただ困惑したといった反応を見せていた。
魂魄炎の話もそうだが、先程の幸村が放ち唯にも疑問の楔を打ち込んだ“仁王が一年の時に起きた出来事”の話については、恐らく丸井もジャッカルも周知のことだろうが、彼女はとりあえず今は口にはせず胸中に納めることに決めた。
「なぁ、赤也も俺も、そのジョーカーとかふざけた奴に巻き込まれたってことかよぃ」
「恐らくですが、可能性は高いと思います」
「じゃあ、こうしてらんねーじゃん」
唯の言葉の全てを聞き終わらないうちに、一人美術室を出て行こうとする丸井を慌ててジャッカルが引き留める。
「待てブン太。一体どこ探すつもりなんだ」
「赤也を一人でほっとけないだろぃ。もう一回、とにかくその辺探してくる」
「丸井くん。無川さんも仰ってましたが、無闇矢鱈に探しても切原くんが見つかるとは思えません。ましてや、丸井くんに万が一のことがあっては目も当てられません。心苦しいですが、まずは、仁王くんたちを待ちましょう」
宥めるようにして柳生が重ねれば、渋々、丸井は席に着く。
やがて、準備室から柳と幸村が戻ってきた。仁王と真田の姿が見えないことに柳生が尋ねると、まだ中で話をしていると柳が答える。
何を話し込んでいるのか唯も少し気になったものの、それから間もなく二人が戻ってきたため、切原の件に話が戻った。
(仁王くん、どんな風にあの三人を説得したんだろう)
落ち着いた様子の柳から、仁王はひとまず彼らが納得する説明をしたようで、他の二人も同じく閉口したまま席に着く。
じっと唯は仁王を見つめてみたが、彼から答えが返ってくることはなかった。
「概要については大凡分かった。肝心の赤也の居場所だが、仮に校内にいないとして仁王の話を総合すると、可能性として考えられる場所が一か所あるな」
「それってどこだよ」
丸井が目を輝かせて尋ねると、柳は口を開きかけて、ふとその視線を泳がせた。
それを見た丸井も、真似をするように彼の視線を追う。
「どうかしましたか? ジャッカルくん」
柳の視線の先にいたジャッカルは、先程から一人室内の至るところを見渡しては時折首を捻っている。
その様子を不思議そうに眺めていた柳生が漏らすと、今度は目を閉じて音を拾い上げているジャッカルは、その姿勢を崩さないまま答えた。
「いや、何か、さっきから変な音がするなって。あ、ほらまた聴こえるぜ」
彼の言う通り、唯が耳も澄ましてみると、確かに、かさかさとまるで紙が擦れるような微かな音をとらえた。
一体どこからと彼女が室内を見渡していると、ジャッカルが「あ」と短い声を上げる。
「……無川の鞄からじゃないか?」
全員の視線が、机の上に置かれている鞄へと注がれる。
唯は恐る恐る鞄へと近づき、外側から耳を当ててみると、何かが動く音が聞こえてきた。
驚いて勢い良く鞄から離れた彼女と入れ替わるように、丸井も耳を欹てる。
「ホントだ。お前の鞄からかさかさ音がする。良く気付いたなジャッカル。中に虫でも入ったんじゃねぇの?」
「虫……」
虫と言う単語を反芻して、唯は表情を曇らせる。
中に食べ物を入れてはいなかったのは幸いだが、それでもどこに潜んでいるのか分からない状態で、鞄の中を覗き込むのは勇気がいるものだ。
「無川。俺が代わりに見てやるぜ?」
「あ、ありがとうございます」
鞄に触れるのを躊躇している唯を見かねて、丸井が彼女の鞄に手をかける。
彼に見られて困る物も特に中にはないはずだと考えていた唯に、丸井はもう一度、鞄を開くことを確認した。そして、彼女が頷いたのを見て、いよいよ中を覗き込む。
「思ったより中身少ないな。下手したら俺より入ってないんじゃね。っと、どこだ?」
音の原因を探っていた丸井が、急に「うわっ」と叫んで顔を上げた。
信じられないものを見たような表情をしていた彼は、少し眉を歪め、もう一度鞄を覗き込む。
「どうしたんだ。ブン太?」
「んだよ。びっくりさせやがって」
鞄の中へ視線を落としたジャッカルも、すぐに丸井とそっくり同じような表情を浮かべ、ちらりと唯の方を見た。
「……無川、お前、中に何入れてんだよ……」
丸井の指摘に唯は心当たりがなく、なぜ彼がそんなにあきれた顔をしているのか分からずに丸井とジャッカルの顔を交互に見つめる。
そうして、丸井が指で摘み上げ彼女の目の前に差し出したのは、先日拾ったあの茶封筒だった。