カレイドスコーピオ

インビジブル

08.小さな部屋 / 13

 柳生と美術室へと移動し、それから幸村たちが姿を見せたのは、十分ほど経ってからだった。
 その中には、前回は姿のなかった仁王と柳生、ジャッカルの姿もある。
 彼らも幸村から一通りの事情は聞いており、本日この場所へこうしてレギュラーたちが一同に会した理由も既に知っていた。

「で、柳、どうするんだよぃ? 犯人探すったって、手当たり次第に周りの奴に聞こうにも、そもそも今日は土曜だから人いねぇし、どうしようもなくね?」

 開口一番にそう漏らした丸井の発言は、にとっても疑問に思っている事柄の一つだった。
 この先、得られる情報はないだろうと仁王も言っていたこともそうだが、今回の事件の延長線上にはジョーカーが間違いなくいる。普通に探ったところで簡単に犯人へと行きつくなら、もう既にたちはジョーカーが誰であるか特定出来ていたはずだ。
 ましてや、そんな裏事情を知るはずもない柳の料簡を推し量るのは困難なことである反面、非常に興味を惹かれるのもまた事実だった。

「そんなことをすれば、あっという間に生徒の間で有らぬ噂になるだろう。それに二日合わせても高々数時間の間に聞き込みをしたところで、有益な情報が得られるとは思えない」
「ちょ、なんスかそれ。じゃあ、何のために今日俺ら集まったんスか!」
「赤也、そう慌てないで。蓮二の話はまだ終わってないよ」

 堪らず上げた切原の抗議の声を柳の代わりに幸村がやんわりと諌めれば、彼はそれ以上何も言えずに黙り込む。
 そんな三人のやり取りを横目に、は密かに仁王の様子を伺うが、彼は平然とした顔で柳の話を聞いている。間違いなくこの先の展開は仁王の読み通りになるのだろう。彼女はやや緊張した面持ちで、柳の話の続きを待った。

「明日はともかくとして、今はあと二時間ほどしか時間の猶予がない。だから、今日は当時の再現をしようと思っている」
「当時の再現ですか?」

 が不思議そうに首を傾げ、思わずそう漏らす。
 当時の出来事については、先日柳が色々と情報をまとめていたはずであり、今更改めて洗い直しをする必要があるとは思えなかったのだ。

「あぁ、無川たち三人が当時どういった行動を取ったのか、俺達も三手に分かれて行動を記録する。それぞれの視点を改めて辿ることで、新たに見えてくる部分もあるだろう。ほら、ちょうど当時と同じくらいの時間だ」

 柳の視線に誘われるようにが壁の時計を見れば、今まさに十五時半になろうとしているところだった。
 隣の丸井があっと短く声を上げる。

「俺、十五時四十分ぴったりに飲み物買ってくるって赤也に言って別れたぜ。そん時、間違ってセットした携帯のアラームが鳴ったのすげぇ覚えてる」
「そうか。では、早めに動き出す必要があるな。まずは肝心のグループ分けだが時間がない、俺に決めさせてもらうぞ」

 そう言って柳は全員の顔を見渡す。特に誰も否定しなかったことから、柳は手元のノートへと視線を落とした。

「丸井、無川、赤也にそれぞれ二人ずつ割り振るが、まず、俺と仁王が丸井、精市とジャッカルが無川、弦一郎と柳生が赤也だ」
「ちょっと待って下さいッス! 何でそんな振り分け方になるんスか!」

 焦ったように話に割って入った切原だったが、直後に感じた視線に閉口する。
 真田が目を細めて切原を見下ろしていた。その口元は僅かに笑みを象っていたが、勿論瞳は全く笑ってなどいない。

「ほぅ、俺が不服なのか?」
「うっ。何でもないッス……よりによって真田副部長かよ」
「聞こえとるぞ。赤也」
「!!」

 いよいよ完全に沈黙した切原に、柳はやれやれといった視線だけを送り、何事もなかったかのように話を続ける。

「三人の中で、丸井は本件の要だ。特に注視する必要がある。仁王も俺と組むのに異存はないな?」
「あぁ、構わんぜよ」

 まるで探るように柳が仁王を一瞥すれば、彼は柳へは視線を向けずに、目の前で繰り広げられる切原と真田のいつもの光景を楽しげに眺めながら同意する。
 幸村も真田も口にこそしなかったが、やはり仁王の動向について少なからず気にはしているらしく、それを感じ取ったは、彼らの目的の裏には仁王のことがあるのだと改めて理解した。

「丸井たちは当時と同じように行動し、残りは気付いたことをメモに控えてくれ。時系列から鑑みて、丸井が飲み物を買うために赤也と別れるところから始めよう」
「じゃあ、俺も一緒に丸井先輩と移動ってことか」

 切原は立ち上がると一瞬だけの方を見た。それから何か言いたげに口元を歪めたが、直ぐに思い直して扉へと向かう。

「先輩たち、早く移動しないと時間になるッス」

 切原に促されるように丸井たちも立ち上がると次々に美術室を出ていき、室内にはと幸村、ジャッカルの三人だけとなった。

「じゃあ、俺達も始めるとしようか」

 一瞬、気まずい無言が三人の間を漂ったが、幸村がその空気を率先して切り裂く。
 はこくりと頷くと、もう一度時計へと視線を向けた。

2013/03/04 Up