
「何だって俺らこんなことしてんだよぃ」
先程からあからさまに不機嫌そうな顔をしている丸井を、すぐ隣に座るジャッカル桑原がまぁまぁと宥めていた。
「だってコレすっげー当たるってコイツが言うし、それに変なこと起きたりするって……それってやっぱすっげー楽しそうじゃないッスか!」
そう言って意気揚々と財布から十円玉を取り出したのは切原赤也だ。
同じくクリアファイルから慎重に一枚の紙を取り出して四人が座る机の上に置いたのは、切原のクラスメートでテニス部員でもある国舘省吾だった。
平仮名やら鳥居やらが並ぶその紙を一瞥した丸井は、すぐに興味なさそうに目をそらすと携帯電話に視線を落とす。
「俺、あんまりこういうの興味ないんだけど? 飽きたら帰るぜ。って言うかもう飽きた」
「早っ! って駄目ッスよ丸井先輩! 中途半端に止めると呪われるらしいッス」
「は? 何だよそれ。だったらなおさらそんなの赤也一人でやれよぃ」
「一人じゃルール違反だし、二人じゃ足んないから、先輩たち呼んだんじゃないッスか」
言うなり切原が、丸井の前に未開封のチューインガムをさっと差し出す。再びちらりと丸井が視線を向けると、切原がにかっと笑った。
丸井がそんなものには釣られないと目を細めると「これ、今日発売の限定らしいッス」と切原が畳みかける。ぴくりと丸井の眉が動く。
しばらく迷う様子を見せた丸井だが、やがて諦めたように頭を掻き、赤也の誘いはきっとロクなことがないと呟いて携帯電話をポケットに仕舞うと、ガムを奪うように受け取って椅子に深く腰掛けた。
「で、一体何やるつもりなんだ? こういうのって普通女子の得意分野だろ」
ジャッカルのごく当たり前の質問に切原は困ったように眉根を下げた。
「クラスで男でもやってる奴、結構いるッス。俺、この前学校で定期入れなくしちまって、ずっと探してんだけど、いっくら探しても見つかんねーし。そしたら国舘からこれで聞いてみたら良いんじゃねって勧められて。あ、ついでに今度の英語のテストの範囲も教えてもらおうかと」
「……お前、むしろ後半のやつが本命だろぃ? ……幸村くんや真田が聞いたら怒るだろうなー」
「うっ。冗談ッスよ! 定期はマジな話! 期限も結構残ってたしそれに大事なモンも入ってたし、っと。それにもうここにいる時点で先輩達も同罪ッス」
「いや俺、完全に巻き込まれただけだろぃ」
切原と丸井のそんなやり取りにジャッカルと国舘は互いに顔を見合わせて苦笑する。
「国舘。赤也が言ってた『二人じゃ足りない』ってどういう意味なんだ?」
「なくしたものをこっくりさんに探してもらう時は、四人でやった方が見つかりやすいってクラスの奴から聞いたんです。そしたら切原がすぐにジャッカル先輩と丸井先輩呼んで。あ、あと仁王先輩も誘おうとしたみたいだけど、どこ探しても見つかんなくて。で、代わりに俺が参加って訳です」
「……俺はともかく、ブン太を呼んだのは失敗だと思うが」
「……俺もちょっと思いました」
ははと力なく笑う国舘にジャッカルもつられて眉を下げる。
お互いベクトルは違えど、マイペースな友人を持つと気苦労が絶えないものだ。
どうやら丸井は、今度は幸村精市や真田弦一郎の名前をちらつかせて切原をからかっているようで、彼の言葉に合わせて切原は時折表情を青くさせていた。
やがて切原と丸井の交戦は、切原が一週間分の菓子を彼に献上することで折り合いがついたらしい。満足気にガムのパッケージを破り出した丸井に思わずジャッカルがため息をつく。
「それにしても、赤也。何で俺の教室なんだよぃ。お前の所でいーじゃん?」
言って丸井がガムを口に放り込む。二、三回噛み締めると少し眉を顰めて「まぁまぁだな」と一人ごちた。
「あー俺のとこ、女子たちが頻繁にやってるんッスよ。見られたら何か気まずいし。そーいや、ホント急にコレ流行り出しましたよね。んじゃ、とっとと始めちゃいましょーよ」
鳥居の上に置いた十円玉に指を乗せた切原が、わくわくした声で他のメンバーを促す。
何だそんな理由かよと呆れた声を上げた丸井も、切原に続いて指を乗せれば、ジャッカルも国舘もそれに倣った。
「雨で練習流れたからまだ良いけど、真田あたりに見つかったらマジ煩さそーそん時はジャッカル何とかしろよぃ」
「俺かよ!」
「そん時はそん時ッス」
「あ、じゃあとりあえず始めますー」
いよいよ硬貨には四人の指が乗せられた。
そして昼過ぎから降り出していた雨は、彼らの知らぬ間に激しくなっていた。