カレイドスコーピオ

からの鞘

01.からの鞘 / 11

 こんのすけが放った言葉の意味が呑み込めず、はただただ目を丸くするが、相手は淡々と話を続けるばかりだった。

「審神者さまは、境界を越えてこちら側へお越しになりました。また、間違いなく政府との契約も締結しております。現にこうして加州清光の顕現および、本丸の機能が正常に行われているのが何よりの証拠です」
「え? ちょっと待ってください。そういうことじゃなくて……」
「政府としましても……」
「あのさ。こんのすけの言いたいことは俺も良く分かるんだけど、多分、知りたいのはそういうことじゃないと思うんだよね」

 そこまで黙って話を聞いていた加州が、ようやく口を挟んだ。
 も思ってもみなかった助け舟に彼の方を見ると、目が合った加州は、何やら気まずそうに目をそらした。

「こんのすけは、決められたことさえ説明すれば、それで良いのかもしんないけど、この様子じゃ、本当に何も知らないまま先にこっちに来ちゃった感じじゃん。まぁ、こういうの珍しいことじゃないらしいし、そこを説明するのも俺の役目って言うなら、それはそれで俺も別にいいけどさ……」

 もう少し、ゆっくり話してあげても良いんじゃないと締めくくると、加州はそれきり黙り込んでしまい、手持ち無沙汰に茶を飲み干した。
 だが、やはりこんのすけの表情に目立った変化は見られない。
 こんのすけが、自分は政府と審神者との伝達係であると自己紹介をしたとおり、決められた事柄以外は口にする術を持たないのではないかと勘繰るほどだ。

「いえ、もう審神者がどうとかの説明は、私には関係ないので結構です。それより戻れないってどういうことですか? そんなの、そんなの困ります」

 少なくともこの本丸にが迷い込んでから、ゆうに一時間以上、叔母の家からの時間も含めれば、相当の時間が経っている。叔母の家で待つ彼には、散策してくるとしか伝えていないので、いい加減に戻らなければあらぬ心配をかけてしまうだろう。もちろん、その他に叔母の葬儀の準備などやるべきことがある。
 こんのすけの口ぶりからは、全くを帰す気配が感じられない。これではまるで、監禁されているようではないかと彼女は背筋を強張らせた。
 そのように受け取っても仕方がない要素は、これでもかと揃っている。下手に相手を逆上させでもしたら、いよいよ自分の身が危ないのではと、彼女の頭にそんなことも過ぎるが、同時に沸々と怒りが沸き起こってくるのも事実だった。

「くどいようですが、審神者たる資質が認められたが故、こちら側へお越しになられたのです。審神者としての務めを正常に果たしていただくため、審神者さまご自身についても、政府側にて厳重に管理させていただきます」
「は? 管理?」
「はい。簡単に申し上げますと、審神者さまが元々おられた環境と、この本丸との干渉を防ぐために、双方の境界をひとまず閉じさせていただきました。ただし、これだけでは、特に審神者さまが元々おられた環境側において様々な問題が生じます。その点は、政府が責任を持って対応させていただきますので、どうぞご安心ください」
「何とかするって……一体、何を……?」
「具体的な施行内容につきましては、任命書をお受け取りいただいたのちに、ご希望であればお知らせいたします」
「何一つ答えになってないじゃないですか! こんなふざけた話で、理解なんて出来るはずがない!」

 いよいよが声を荒げる。
 一向に進まない話に、一方的な言い分。どれをとっても、彼女には理不尽極まりない内容だ。怒りの矛先をこんのすけに向けてみたところで、事態が改善に転じるとも到底思えないが、それでも今のにはこうするしかなった。

「理解しろとは申しません。しかしながら、審神者になられた以上は、務めを果たしていただきます」
「こんのすけ。もうそれくらいにしときなよ。このままじゃ埒が明かない。あとは俺が説明するから、だから、少し時間くれない?」

 加州が再び仲裁に入った。だが、がこうして取り乱す様を前にしても、彼の声の調子もこんのすけと同様に大きな変化はなかった。要するに加州もまた、政府側の人間と言うことなのかと、はぐっと震える両手を握りしめた。
 彼は更に自分がこんのすけの代わりに説明するとも言っている。だが、この提案は彼女にとっても願ってもないことだ。の抱える感情を加州にぶつけたとしても問題はないだろう。そして何よりも、こんのすけよりも話が通じるかもしれないという望みがある。
 がまっすぐに加州を見つめると、彼は今度は目をそらさない代わりに、少しだけ困ったような顔をした。

「……その方が得策のようですね。かしこまりました。明日、改めさせていただきます。審神者さま。私の説明に至らぬ点があり、大変申し訳ございませんでした。それでは、失礼いたします」

 こんのすけは立ち上がると、に向かって深々と下げる。
 加州が襖を開けば、そこからするりとの横を抜けて、その向こう側へと姿を消した。

2016/06/07 Up