カレイドスコーピオ

インビジブル

11.全国大会 / 30

 が立海側のベンチへと移動すると、早速柳が声をかけてきた。

「随分と深刻そうな顔をしていたが、財前と何を話していた?」
「大丈夫です。関係のない他愛のない話をしていただけです」

 彼女の反応からある程度汲み取ったのだろうか。柳は素っ気ないの答えにも追及はしてこなかった。同じく隣に座していた仁王と柳生もだ。
 これがもし切原や丸井だったら話は違っていたのかもしれない。二人とも今は四天宝寺との試合の方に意識が集中していたのは、彼女にとっても幸いだった。

「七不思議は噂通りでした。あと、これも関係ないですけど、四天宝寺の千歳くんも多分そういうのが分かる人かもしれません」
「それは意外だな」
「はい。でも、そんな気がしただけで、千歳くんが自分でそう言ったわけじゃないんです。それに……」
「どうした無川?」

 そこまで話して、急に黙り込んだを怪訝そうな顔で柳が見る。

(何となく避けられているような、気がした)

 確証はなかったからこそ、それを口にするのは憚られた。ましてや彼からあからさまにそういった態度を取られたわけでもない。
 彼女の記憶の限り、千歳とは全国大会で初めて会ったはずだ。
 確かにコートに向かうまでの間、千歳は足早に歩を進め、結局が彼と会話を交わすことは一切なかったが、遠山とのやり取りを見る限り、千歳も極端に口数が少ないというわけもなく、それがかえってに違和感を抱かせる要因になったのかもしれない。

「で、無川が確認してみて、実際どうだったんじゃ?」
「遠くから眺めただけなので何とも。仁王くんに聞いてからのほうが良いかと思ってたら、金太郎くんに会ったので、そのまま一緒に戻って来ました」
「そうか。なら、詳細が確認できるのは、四天宝寺との試合が終わってからか。ただ、この様子だと確実に日が落ちるな」
「切原くんと遠山くんです。白熱した試合になることは間違いないでしょう」

 柳生がちらりとコートを見やると、ネットを挟んで対峙する二人の姿が映った。

「あまり好ましくないのう……それに厄介なのが来たみたいじゃ」

 仁王の声色に若干うんざりしたようなものが混ざる。
 どうしたのかとが顔を上げると、四天宝寺側のベンチがにわかに騒がしくなった。

「いつもいつもあいつは、一体どこから嗅ぎつけてくるんじゃ」
「仁王くん。そのような言い方をしては、彼女に失礼でしょう」
「確かにこのままでは、今日も進展は望めないだろうな」

 カメラを向けられた瞬間、財前はあからさまに嫌な顔をし、一方ベンチに戻ってきた忍足はノリ良くピースサインを構えている。そして撮影者の藤ヶ谷の表情は見なくても容易に想像がついた。
 考えてもみれば、トーナメントの組み合わせさえ違わなければ、確実に熾烈を極めたことは想像に難くない学校同士だ。藤ヶ谷にとっても当然食指が大いに動くシチュエーションに他ならなない。
 ただ、柳の言う通り、藤ヶ谷には悪いが彼女が居ては七不思議の調査に支障が出てしまうのは必至だった。
 その上での柳の発言は、彼女を煙に巻くことすら最初から諦めているようだったが、それはも同意だった。他のメンバーも同様だろう。
 ひとしきり撮影し満足したのか、藤ヶ谷がたちのところへとやってくる。と同時に、試合を終えて一時的にコートの外へ出ていた丸井とジャッカルも戻ってきたところで、自然と四人の話は打ち切りとなった。

「げ。藤ヶ谷。どこから湧いてきたんだよぃ」
「ちょっと何それ! ほんっと丸井くんって私の扱い段々酷くなってない?」
「戻ってきたらお前がいるって、俺にとってはちょっとしたホラーだぞ」
「部活終わってから、割と早く皆居なくなったからおかしいとは思ったのよね。まさかこんなところで四天宝寺と試合してるとは想定外だったわ」
「……もう聞いちゃいねーし」

 相変わらず無遠慮にカメラを構え始めた藤ヶ谷より丸井は距離を取ってベンチに腰を下ろしたが、やはり戻ってきたの様子が気になるのか、ちらりと彼女の方を見てから藤ヶ谷に視線を移して盛大にため息をついた。
 ところが逆にその行動が藤ヶ谷の何かに触れたのか。彼女は怪訝そうに眉を寄せて丸井に尋ねた。

「……なんか気になる」
「は? 何がだよぃ」
「分かんないけど。勘」

 そう言って彼女は丸井を見つめる。彼が思わす一瞬目を逸らすと、藤ヶ谷は確信を持ったようにほらと呟いた。

「お前の勘なんて知らねぇよ。十分写真撮ったんだろぃ? なら、もう帰れよ」
「切原くんの試合が終わったら。次は柳くん辺りかな?」
「時間も時間だからな。これで終わる予定だ」
「それは残念」
「ほんっと人の話、これっぽっちも聞かねーな……」

 脱力しながら丸井が零すが、彼女には全く響いていない。だが、意外にも藤ヶ谷がここに来た目的は彼らの試合を観るためではなく、純粋に個人的な撮影をするためだったらしい。
 彼女は思ったよりも早くこの場を去る様子を見せていたが、ふと柳は考え込むと思わぬことを口にした。

「藤ヶ谷。立海七不思議は詳しいか?」
「え?」

 問われた藤ヶ谷だけではなく、を始めとした全員の声が綺麗に重なった。

「まさか、柳くんからその言葉が出るとは思わなかったわ……そりゃ、それ系の話は学校の新聞部のお約束みたいなものだから、それなりには取材したことあるけど、急にどうしたの?」

 思わず仁王が口を挟みかけるが、柳は視線だけでそれを制すと、改めて藤ヶ谷に向き直った。

2017/04/16 Up