カレイドスコーピオ

インビジブル

11.全国大会 / 11

 各校に対して本日予定していた残りの試合の中止が通達されたのは、藤ヶ谷が言った通りそれからまもなくのことだった。
 やがて会場内のアナウンスでも同内容が流れたのだが、その頃には熱中症だけではなく例の影の少年についての話も大きく広まっていた。
 当然ながら大会本部の見解に後者の理由を含むわけにもいかず、あくまでも猛暑による選手への体調悪化を懸念しての止むを得ない中止というものを前面に押し出していた。
 当初のスケジュールでは、一日目に該当する本日は準決勝にあたる第四試合まで行われ、二日目の午前中は三位決定戦そして午後には決勝となる予定だったはずだ。
 現在はまだ第二試合までしか完了しておらず、第三試合の四試合と第四試合の二試合の計六試合が残っている。
 会場は十分な広さがあり同時に試合を行うことが可能なため、コート不足による遅延の心配はいらないが、一日目にして一校あたり最大で四試合も消化しなければならないというのは、二日間という総時間だけで比較すると、一見非常にバランス配分が悪いようにも見える。
 だが、実際のところは試合内容、時間を総合し熾烈さを極めるのは、並みいる強豪を勝ち進んできた学校同士が衝突する二日目、特に決勝戦であることに他ならない。
 本日分の試合が二日目に後ろ倒しになるとすると、必然的に二日目の決勝戦分の時間が足りなくなる。その点をどうするのかについては、大会本部からは調整中と回答が出ただけだった。
 アナウンスを柳と歩きながら聞いていたに、彼はもしかすると決勝戦だけは別日、それも相当な日を空けて行われることになるかもしれないと呟いた。
 もし予備日が一週間程度の間隔を持つのであればもれなく新学期が始まっている。敗退校も情報収集を兼ねて試合を観戦するのは珍しくないが、そうなれば決勝にコマを進めた学校以外には観戦者がいないという事態にもなりかねないだろう。

「試合が行われない以上、無川はもう学校に戻った方がいい。仁王には俺から説明しておくよ」
「え?」
「入選発表は今日の夕方のはずだろう」

 柳の口からその話が出てきたことに、は少なからず驚いた。
 彼女も美術展の件を忘れていたわけでは決してないが、佐竹の意見も尊重して出来得る限りそれを口にはしていなかったのだ。

「何を驚いている。毎年、絵画展の結果発表はこの時期だ。佐竹を連れて早く戻れ。中止もこうして正式に発表されたことだ。あまり時間をかけると交通機関に影響が出るぞ」
「はい。そうしますね。ありがとうございます。あの……」
「どうした?」
「その、皆にお疲れ様って伝えてもらっても良いですか? あ、切原くんとかは私もメアド知ってるから自分で直接伝えろって話ですけど」
「あぁ、構わない。伝えておくよ」

 そうして頭を下げたは、佐竹がいる場所へ向かうべく柳とは反対の方へ歩いていく。
 の姿が完全に見えなくなってから、彼は携帯電話を取り出しアドレス帳から番号を呼び出した。

「すまない。確認したいことがある。今から少しばかり時間が取れないか?」

 柳が懸念した通り、バス停周辺には既に多くの人の姿があった。
 特に最寄駅へと向かうバスには長蛇の列が出来ており、少し遠回りにはなるが、比較的空いていた列の短いバス利用してと佐竹は学校へと戻ることにした。

「すいません。無川部長にまで俺の都合に付き合ってもらって」
「そんなこと気にしないでください。そのつもりだって前々から言ってましたし」

 佐竹が申し訳なさそうに軽く頭を下げる。
 朝は全く気にしていない素振りを見せていた彼だが、やはり本人としても受賞の行方については非常に気にしているのだろう。握られた彼の両拳はほんの僅かに震えていた。
 もちろんがそれを指摘するはずもなく、彼女は全く気付かないふりをした。城咲からはまだ結果は来ていないことを乗車する前に確認している。
 二人が乗り込んだバスもすぐに満席になったが、幸いにも最後部席が空いていた。クーラーが良く利いた車内は若干肌寒く感じるほどだ。乗り換えの時間から逆算していくと、柳の言う通り早めに動いて正解だったようだ。
 去年、自分はどんな心境で時間を過ごしていただろうか。がそれを思い出すのに少しの時間を要した。
 いつもと変わらず美術室で絵を描いており、ちょうどスケッチが一段落したところで入ってきた城咲に教えてもらったのだ。
 嬉しかったのは勿論、同時に安心したことが、ルーチンワークの中から一つ飛び抜けて彼女にしがみ付いている記憶だ。佐竹はそうではなければ良いとは思った。
 全国大会の二日目にはも行くつもりだ。
 明日の天候は、本日に比べると大分和らぐと予想されている。だが、それがどうであれ、影の少年は変わらずに現れるであろうことは容易に予想出来た。
 先程柳は仁王に話すとは言っていたが、自分も夜になったら仁王に少し電話をしてみようと、はバスに揺られながらそう決めていた。

2015/10/12 Up